補聴器について
電気的な信号増幅を行う現代的な補聴器が初めてつくられたのは約120年前のことです。
そして1940年代には真空管式の弁当箱サイズが完成、その後デジタル時代が到来し、更なる進化を続けています。
現在の補聴器は装用しても分からないほど小型化しつつ、性能は格段に上がっています。これほど進歩した補聴器ですが、日本の難聴者における補聴器所有率は諸外国に比べて著しく低いことがわかっています。
加えて、補聴器の全体的満足度はヨーロッパの国々が80%前後であるのに対して日本は39%と低い水準です。これはなぜでしょうか。
一つに、補聴器を生活に取り入れるタイミングが遅いことがあります。
健常聴力は 0~ 20dB ですが、平均聴力 55dB 程度で生活に支障を来すことが多くなってきます。
普段の生活の中で聞こえにくさを自覚されても、退職後であったり、年齢的にあまり外に出ない生活スタイルであったり、また値段が高い、何となく格好悪い、装用が面倒、煩わしいなどの理由から、積極的に補聴器について考えずに過ぎてしまう傾向にあるようです。
周囲の人が何度も大きな声で話さなければ聞こえないほどまで難聴が進み、ご家族が一緒に生活する上で大変だと言うことで初めて来院される方が多くみられます。
人が音を聞くとき、音を大きくすれば聞こえると言うわけではありません。あまりに大きな音は不快閾値を超え、聞き続けることは困難ですし、音が割れて言葉として聞き取ることはできません。
このため難聴が進んでから補聴器を導入すると、聞き取れる音の強さと不快閾値とが近くなり、補聴器で設定する有効な音の強さの範囲が狭くなります。
諸外国では装用するタイミングが日本より早く、国も積極的導入を支援する方向にあります。生活の質を向上するためには難聴を改善する事はとても大切だという認識がなされています。(国の方針や助成は各国様々です。)近年、難聴が認知症のリスクファクターであると分かってきました。脳に音刺激が入りにくくなることが認知症の原因の一つになると考えられています。(注:補聴器を装用したからといって認知症が治るものではありません。)
補聴器装用を考えたら
日本では、2005年に耳鼻科専門医が研修を受けて始めて取得可能な「補聴器相談医」という制度が導入されました。ですから、補聴器についてのご相談は、聴力だけでなく、現在の耳全体(外耳・中耳・内耳)の状態を正しく知るために耳鼻咽喉科を受診してください。
日本では補聴器に関する規制は実質的になく、現在は誰でも販売可能です。このためご高齢の方が良く利用する眼鏡店で補聴器を一緒に販売していることは多くの方に知られています。
補聴器は購入してからが、とても大切です。年々変化する聴力に合わせて器械を調整する必要があります。購入後、永く活用するためにも補聴器の調整がきちんと出来る「認定補聴器技能者」を置き、補聴器販売店協会に所属している「認定補聴器店」をお勧めしています。現在補聴器のメーカーは世界のいくつかの国にあり、総計でおよそ500種類ものモデルが存在します。この中からご自身の聴力に合わせて、生活styleに合った機種を選ぶために、是非試聴、調整を何度かくり返して下さい。こうすることで補聴器の装用効果を実感し、満足感を得ることが出来るはずです。
補聴器は時代とともに進化しています。スマートフォンで操作可能なもの、充電式、外国語を翻訳してくれるものまで様々です。どの電子機器にも言えることですが、機能が増えれば価格はあがります。しかし使いこなせないほどの機能は必要ありません。ご自身がどんな生活を送りたいのかという価値観に基づいた選択をし、不要に高価なものを購入することのないよう注意することが大切です。
当院から紹介している認定補聴器店では、試聴期間を充分に設けていただいています。誰でも初めての装用になるわけですから、本当に効果を得られるのか、毎日装用して不快ではないか、よく見極める必要があります。
「日本耳鼻咽喉科学会補聴器相談医」委嘱のための講習会(2020年2月)より
補聴器購入までの具体的な流れ
- ご自身やご家族からの指摘により補聴器にご興味を持たれたら、まずは耳鼻科を受診してください。
- 耳鼻科では当日可能な検査から行います。鼓膜・外耳道の状態を確認し、また標準純音聴力検(いわゆる普通の聴力検査)を行います。語音聴力検査の予約をして初診日は終了です。
- 語音聴力検査とは、ピーという単音ではなく、言葉の聞き取りの検査です。ひらがなが規則性なく聞こえてきますので、ご自身で聞こえた通りに紙に記入していただきます。
- 検査結果を基に、補聴器を装用して効果があるかどうか判定します。検査結果は後日説明いたします。装用効果が期待できる結果の場合、立地的に通いやすい認定補聴器店へご紹介します。